新選組

 新選組を知る前にまず知っておかなければいけないのが、幕末日本の情勢。二百数十年の天下太平の江戸時代がにわかに緊迫化する。それは黒船来航。江戸時代の日本は鎖国政策で他国との貿易はわずかな港に限定されていた。そこへ、威圧的ともとれる強行な姿勢で開港を迫ってきたのだ。当時は欧米諸国のアジア植民地化政策が盛んで、アヘン戦争での中国進出(侵略?)の情報も当然日本にも入ってきている。そのため幕府は「はい、わかりました」と言われた通り開港するわけにもいかないし、拒めば武力行使されるおそれが大いにあるし…、というどっちも選びづらい状況に追い込まれていた。また、幕府自体も安泰な世の中に慣れ過ぎていたのか、個人的な私利私欲、身の安全を優先する役人が多くなっていて、政治能力、統括能力、判断能力などが衰えてきていたのも確かなようである。そこへ、反幕府の長州藩を中心とした諸藩が尊王攘夷を旗にアピールしてきた(長州は関ヶ原の戦いで徳川勢に負けた恨みが続いていたとも言われている)。当時は天皇を味方につけることが絶対の正義であったので、政治の矢面に立たされ、開港せざるを得なくなりそうな幕府が悪になるには、尊王攘夷は絶好の材料だった。幕府側も、もう幕府だけではどう処理することもできなくなっていたので、公武合体(皇室と幕府と一緒に政治をする)を打ち出さなければ、政権の維持はできない状況にまでなっていた。つまり、天皇の奪い合いという内乱状態であった。
 天皇のいる京都は、長州をはじめとした反幕府側の人々が多くなってきていた。それと同時に、政治協力(言い方は違うが)みたいな理由をつけて、町民から押し借りや強盗する人も増えていて、治安も悪くなっていた。そんな折、関東では、将軍上洛(京都へ行く)の守護と言う名目で、多くの浪人が集められ、京都へ旅立った。後の新選組創設メンバーもその中にいる。幕府は危なっかしい浪人たちが江戸を離れてくれるのをねらったとも言われているが、その浪人軍団は京都へ着くなり、又、関東へ戻ることになった!それは、発起人の清河八郎の策略で、実は将軍警護の為ではなく、天皇を守る守備隊である、と天皇の許可をとりつけてしまったのだ。そして、諸外国が攻めてくるであろう江戸を守ろうと、帰ることになったのだ。しかし、それに従わない連中がいた。その理由は、当初の将軍警護という目的を達成しないで、志を曲げることはできないと言うものだった。で、その連中だけ残ることになった。それが新選組創設のメンバーである。
 新選組創設のメンバーとは、近藤勇をはじめとした試衛館(今でいう剣道道場)のメンバーと芹沢鴨をはじめとした水戸脱藩のメンバーの13人だった。後の局長、試衛館の先生だった近藤は江戸・多摩地区の農民の出なので、ひときわ武士への憧れ、天下太平を維持していた徳川幕府への恩義などが強かったようである。最初は資金援助や何の支援もない社会的には同好会や青年団程度の集まりだったが、不逞浪人の取り締まりなどの活動が評価され、京都守護職会津藩御預かり(幕府側の京都警備を担当している会津藩の管轄)となり新選組と名乗るようになる。近藤派と芹沢派の権力争いもあり〜の(芹沢派の目に余る程の横暴な振舞いを阻止すべく、幕府から粛清の命が下ったともいわれている)、近藤派の独占となり、組織としての形が色濃く出だす。一般的には、市中取り締まりなどで新選組は恐ろしいくらい人を斬りまくったと思われているが、実際は捕縛がほとんどだったともいわれている。やはり、末端をいくら斬ったところで相手中枢の動向、策略などを探らないと相手勢力を押さえることはできないし、基本的に新選組の与えられた仕事は、捕まえるまでだったようである。そこから先の、相手をどうするか(処罰の具合)は上の役職の仕事だったようである。
 新選組は活躍した。時の流れも幕府側にあった。それがあることを境に一変した。それは、孝明天皇の死去。現在では、実は長州側とつながりのあった公家に毒をもられたということがわかっている。続いて将軍家茂の死去。孝明天皇の妹が家茂と結婚していたのもあり、孝明天皇と家茂は仲が良かったよう。公武合体で諸外国に対応していこうという方向性が見えかけていたように思う。その2人が相次いでいなくなったことで、弱体の幕府がさらに弱体化。流れが一気に長州を中心とした反幕府勢力に傾く。反幕府軍は尊王攘夷にもかかわらず外国から武器等を仕入れ、強固な戦力になる。諸外国もうまく内乱させて、弱った所を攻め込もうという作戦もあったらしい。新選組はいわゆる歩兵隊みたいなものだから市街戦は強いが(しかも刀が主)、母体の大きな戦争という戦いになると、結局母体勝負になってしまう。そうなると、今や倒幕という目的が明確になり、天下取ろう!と気勢を上げてる反幕府軍と弱体化している幕府軍の勢いの差は歴然で、数の上では幕府軍の方がはるかに上回っていたが、勝負は反幕府側へ。結局幕府側は、天皇に楯突いた賊軍として徹底攻撃を受ける。新選組もその流れに飲みこまれ、京都から江戸へ。その後は散り散りに。幕府側の一部(土方歳三をはじめとした新選組の面々もいる)は徹底抗戦で東北、函館と場所を引きながらも応戦するが、最終的には降伏。幕末の争いが終結する。
 以上が、当時の大まかな流れだが、私は幕府側も反幕府側も敵対してはいるが、善悪ではなくてそれぞれがそれぞれのまっとうな考えがあったのではないかと思っている。勝負なので勝ち負けはついてはいるが…。反幕府派としては「権力だけはもって弱体化している幕府では、世界を相手に渡り合ってはいけない。新しい時代を作るんだ!」というのがあったのだろうし、幕府側は「反幕府派はもっともそうなことを口にして幕府を悪者にしようとしてるけど、結局は権力がほしいだけじゃないか!」とかいうのがあったのではないだろうか。
 新選組は基本的には尊王攘夷(これは新選組に限らず国民の意識の大半がそうであったと思う)。だけど、それは倒幕の上ではなくて、公武合体としての尊王攘夷であるが、それは結局体裁上に過ぎないことと思う。結局、近藤、土方、沖田総司など創設のメンバーは思想云々よりも、武士として生きることに人生の目標を持っていたと思うからだ。武士とは、主君に対して忠義を尽くす存在だ。だから、幕府の負けが込み誰の目にも末路が明らかであっても、幕府と運命を共にする覚悟でやっていたのではないかと思う。“破滅の道を予感しながらも、主君(幕府)の為に尽くす”そんな存在であったと思う。

沖田総司


 小説は小説。現実は現実。新選組関連の小説は沢山あり、それこそ人気がある証明なのだけれど、私は絶対的な事実だけが載ってる書物がないかと探している。歴史の教科書のようなものではつまらないけれど…。だから、新選組に関する知識も、沖田総司に関するイメージも小説から得た情報に過ぎないので、それがどのくらい事実に近いかは何ともいえない。中には史実を交えながら小説として書かれているものもあるので、部分部分のエピソードでは事実と思える所もあるが…。まぁ、でも小説を読む時は、所詮小説は小説だ!と思っているし、また、火のない所に煙は立たないという言葉もあるので、実際そのような事があったのかもな〜、程度には思っている。
 さて、沖田総司。総司は9才頃より近藤勇のいる試衛館へ内弟子として住み込むようになる。一説には家が貧しく、口減らしのため出されたともいわれている。メキメキ上達し、十代で塾頭に。剣の腕はピカ一で、まじめに向かい合ったら、師範の近藤でもかなわないのではないかといわれる程であった。新選組発足後も隊士の中では若いが副長助勤筆頭に就いたり、1番隊組長に就いたりと重要な役どころを任せられる。だが、ただ総司の中にあるのは“武士として生きる”という事だけだったようである。そして、総司にとっての主君とは将軍でも天皇でもなく近藤勇であった。政治的云々ではなく、ただ、小さな頃より家族同然に世話になった先輩への恩を大切にする、それだけだったのかも知れない。近藤や土方も、総司に対する接し方は他の隊士に対するそれとは明らかに違っていたようで、3人の心の交流ややり取りは、新選組の話の本筋とはそれてしまうがとても面白く、心地よい。本人は血生臭い環境の中で、普段は冗談ばかり言ったり、子供達と遊んだりと他とは一風変わった雰囲気。TVドラマとかでは2枚目俳優が演じたりして、かっこいいイメージがあるが、実際の容姿は、背は高く肩のはった風体で、顔は浅黒くヒラメのようだったと言う記述が残っている。それを知って、ショックを受ける女性ファンも多いようだし、私も最初は少しショッキングな部分もあったが、愛嬌よく、子供にも好かれる良い人柄だった事にかわりはないようである。腕もたち、人柄も良い、と非のうちどころがないような総司だが、全てはうまくいかない。当時は治す手立てのない結核という病魔にみまわれるのだ。新選組内でも最初は活動できていたが、後半は寝ている事が多かったようだ。そして、江戸に下り、近藤の斬首の1ヵ月後、それを知らされずに死ぬ事になる。
 沖田総司人気は、数十年前から今現在でも非常に高い。それも若い女の子が多い。それは、前述の2枚目俳優が演じたりと言うかっこいいイメージもあるが、それだけではなく、剣術が強いとか、むさい男連中の中で、明るく、子供好き、純粋などの異彩を放っているというのもあるかも知れない。それも、やはり小説によって作られたイメージからなのであるが…。あと、避けられない病気によって若くして死んだというのもあるだろう。総司の環境からすると、戦いの中で死んでしまうところなのだが、結局は剣術においては負け知らずで終わったというのもあるのではないか?
 私が好きな所も前述の部分も含むが、それだけではなく、小説の中でいえば、物事の本質を見極められる大きさを感じる所だ。目先の表面的な出来事にとらわれないで、その本質を見抜いた言動をしている。しかし、そんな事は鼻にもかけないで、実に謙虚なのだ。どこまで実際の人物に近いのかはわからないが、そういう所は見習いたいと思っている。そして、死という運命。それも早いであろう死を受け止めなければならないというのはさぞつらかったであろう。いつ死ぬともわからない危険な環境にいて、なおかつ治らない病にかかっているのだ。しかし、表面的には微塵も暗い様子は出さない所にも精神力の強さを感じる。だから私は、ただ好きというよりも、見習いたいというかお手本にしたいという気持ちの方が強いと思うのです。



【新選組・沖田総司関連の読んだ本】
新選組血風録(司馬遼太郎)、燃えよ剣(司馬遼太郎)、沖田総司(早乙女貢)、沖田総司〜六月は真紅の薔薇〜(三好徹)、私説・沖田総司(三好徹)、沖田総司恋唄(広瀬仁紀)、沖田総司〜物語と史蹟をたずねて〜(童門冬二)、新選組〜物語と史蹟をたずねて〜(童門冬二)、新選組一番隊(童門冬二)、新選組100話(鈴木亨)、幕末新選組(池波正太郎)、新選組の哲学(福田定良)、沖田総司哀歌(森満喜子)、沖田総司・おもかげ抄(森満喜子)、沖田総司(大内美予子)、沖田総司(笹沢左保)、完全制覇新選組(山村竜也)、誰も知らなかった幕末維新の謎(武田鏡村)、新選組の歩き方、〜歴史クローズアップ〜新選組、〜歴史群像シリーズ〜血誠新選組、新選組新聞、[マンガ]風光る(渡辺多恵子)